1985年、26歳の時に文藝賞受賞作でデビューし、その後、直木賞、女流文学賞、泉鏡花文学賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、川端康成文学賞を受けている作家の自伝的小説。毎日新聞日曜版連載時までの著者の生きてきた道筋からは、読書への向き合い方から現代の女性の生き方までを考えさせられる。私は、高校時代の88年から89年に、マガジンハウス「オリーブ」で連載された『放課後の音符(キイノート)』で救われ、以降、山田詠美の著作の、おそらく、全てを読んだことのある人間だ。本書の刊行から1年以上が経ち、ヒップホップの何かの曲のサンプリングを聞いて、また、その曲を聞くような感じで、著者が引用したり、紹介したりする国内外の本、映画、音楽で、読んだことがないもの、聞いたことがないもの、はるか昔にそれをやったが内容を忘れてしまったものなどの多くに触れてみた。今回、再読し、より味わい深い一冊になった。本に書かれているものは、「人間が人間である限り、永遠に変わらずに煩わせられるだろう「不便」をテーマにしている」。印象的な言葉である。
Cコード:0093
四六判 312ページ
定価:1,650円+税
発行:講談社