1993年に大判で発表され、その後に文庫化、2003年に出版社が変わって文庫出版された、写真家、編集者で、ジャーナリストの著者による、当時の東京の住宅や、暮らしていた人たちの家の中の写真をまとめた記録集。写真を見ると、その多くは、「物が多い」「散らかっている」「物がむき出しになっている」印象を受ける。1993年といえば、平成5年。昭和の名残が十分あった。コンピュータとインターネットが普及する以前には、スマホもソーシャルメディアもなく、市民のための情報化社会にはまだ突入していなかった。「断捨離」「触ったときに、ときめくか」の片づけ方法の提唱者が登場するのも、まだ先の話である。物に囲まれた、生活感あふれる部屋からは、一生懸命に生きる人々の様子が伝わる。今はどうなのだろう。建物事情が変わり、家を借りる側も買う側も、クローゼットを重要視している。洒落た格安家具も浸透している。時代の流れに沿って物を少なくしたとしても、むき出しにしたくないものは、生活の中に必ずある。それらは、そこに収納する。収集しやすくなった情報や自分が作り出した記録は、コンピュータやスマホの中に格納する。一見すっきりしている。1990年代前半の人々の暮らしは、可視化された現代社会の人々の生活ではないか。名著といわれる本書から、そんなことを感じた。
発行:筑摩書房