Cコード:0036
A5変判 256ページ
価格:2,800円+税
発行:黒鳥社
2023年12月6日にスタートした、本の紹介ブログサイト「16 pages(16ページ)」です。平日の午前に、公開日前後に発売の書籍や雑誌などの情報を掲載します。24年4月1日から「Editor’s Choice 既刊書評」「Editor’s Choice 愛書家のための映画」が不定期掲載になりました。※5月3日~6日は休載しました。
2023年、第128回文學界新人賞、第169回芥川賞受賞作品を読んだ。ずっと友人から勧められていた小説である。右肺を押しつぶす形で極度に湾曲した身体の持ち主であり、両親が遺したグループホームのオーナー兼利用者の、主人公の井沢釈華の物語。釈華の身体の構造だからこそ見える景色が、勢いのある言葉でつづられている。性は生、ということも考えさせられる作品でもあった。子どもの頃から厄介な身体で、若い時に難病に、身体には障害を持つ私は、悲しく悔しい思いもたくさんしてきた。身体に関することで、健常者だったら、ここまでのどす黒い感情を持つのかと自問自答もし続けてきた。しかし、本書を読み、罪悪感を抱く必要などないという答えを見出した。少しだけ救われた。
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(原題:My Salinger Year)
監督:フィリップ・ファラルドー
出演:マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブースなど
2020年
Amazon Prime Video
作家志望のジョアンナが、ニューヨークの歴史ある出版エンジェンシーに就職し、アシスタントから、作家の担当を持てるまでを描いている。ジョアンナ・ラコフの実体験を描いた『My Salinger Year』が原作。そのエンジェンシーはJ.D.サリンジャーの代理人であり、ジョアンナは、彼のファンレターの処理係と、アシスタントとしてサリンジャーと交流することで、作家になることを諦めずに生きることを選ぶ、という話。『プラダを着た悪魔』に似た内容で、おもしろい。また、有名人を支えたり版権を商売にしている産業の、その有名人の直接の担当を経験したことがある人が、黒子に徹し、その関係性を披露しない中、原作者のように、公にする図太さも、良いか悪いかは別として、興味を引く。とはいえ、私が知る限り、本の産業の人は、どの職種の人でも、書くことが好きな人が多い。作家を目指している人もいる。音楽産業の人は、演者を支えることで生活しつつ、自分自身が演者になる目標を捨てていない人もいる。でも生活があるし、その立場にいることへの、世間からの賞賛は捨てられない。だから勤務先や業務委託先との仕事は辞めない。作中、ある作家が、ジョアンナに、何をおいても、対人関係が悪くなっても、書くことが優先であることを話すシーンは印象的であった。主役のマーガレット・クアリーは大変魅力的な女優で、バレエを躍るシーンは優雅で美しかった。誰もが煙草を吸っていた1990年代のお話。