カテゴリー: Editor’s Choice 愛書家のための映画

  • ムーヴィーリヴュー:『マイ・ブックショップ』The Bookshop(監督 イザベル・コイシェ)

    『マイ・ブックショップ』(原題:The Bookshop)
    監督:イザベル・コイシェ
    出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソンなど
    2017年
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     イギリスの作家、ペネロピ・フィッツジェラルド(1916~2000)が1978年に発表した小説が原作。1950年代後半の同国東部の海辺の町が舞台で、主人公の未亡人が書店を開業してから閉店までの物語である。本と書店が好きな人が共感することが多い内容であると同時に、権力者は狙った獲物を、正しいかたち、例えば法律を変え、その法律に従って自分のものにできること、庶民は権力者側につきやすいこと、情熱あふれる行動は次世代が必ず見ていることなどもわかる作品だ。作中、BBC職員の役柄の男性が出てくる。原作者は、戦争中BBCで勤務、その後は、文芸雑誌の編集、書店経営などをやっていたそうで、この作品には、彼女の経験がいきているのであろう。主人公のフローレンス・グリーンを演じる主役のエミリー・モーティマーは、切なくはかなげな表現がうまい女優であった。

  • ムーヴィーリヴュー:『アガサ・クリスティー ねじれた家』Crooked House(監督:ジル・パケ=ブレネール)

    『アガサ・クリスティー ねじれた家』(原題:Crooked House)
    監督:ジル・パケ=ブレネール
    出演:グレン・クローズ、マックス・アイアンズ、ステファニー・マティーニなど
    2017年
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     イギリスの作家アガサ・クリスティー(1890~1976)が、1949年に発表した同タイトルが原作。もちろん殺人ミステリーだ。まずは、犯人を明かさない程度の内容を。レストラン経営で大成功を収め、巨万の富を築いたギリシャ移民のアリスティド・レオニデスが不審な死を遂げた。孫娘のソフィアは、祖父は毒殺されたと考え、かつての、いっときの恋人で元外交官の私立探偵、チャールズに調査を依頼する。彼は情報を集めるため、レオニデス家の屋敷で過ごすようになるが、そこにいるのは風変わりな親族一同だった。全員が、家長であったアリスティドへの殺意を持っているようである。探偵事務所の維持費のためにも、チャールズは、事件をひも解いていかなければならなかった…。商売で大成功したお宅が舞台の話だ。3代しか続いていないので、名家にはなれず、まだ成金の名残のある一族だからこその、家長への蔑みや憎しみがそれぞれに表れていた。家や財は4代目から本番なのだろうということも。ちなみに、私は犯人を当てた。殺人ミステリードラマを見る時の楽しみと言ったら、見ている側が犯人を推理することだ。今回は、その人物が登場した時から「この人が犯人」と思いながらずっと見ていた。最後のシーンでは気の毒なことになるのだが、いたしかたない。アガサ・クリスティー作品は、NHKで「名探偵ポワロ」を毎回楽しみに見ていた。しかし、邦訳小説も読んだことがないので、これを機に読んでみたいと思った。

  • ムーヴィーリヴュー:『読まれなかった小説』Ahlat Ağacı(The Wild Pear Tree)(監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)

    『読まれなかった小説』(原題:Ahlat Ağacı(The Wild Pear Tree))
    監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
    出演:アイドゥン・ドウ・デミルコル、ムラト・ジェムジル、ベンヌ・ユルドゥルムラーなど
    2018年
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     トルコ北西部のマルマラ地方が舞台の、作家志望の若者の物語である。3時間以上の長編作品。最初に、おおまかな内容を。大学を卒業し、故郷の田舎町に帰ってきたシナンは、本の出版のため、地元で資金集めに臨む。しかし人々は無関心だ。さらに、引退間近の教師の父親は、ギャンブルにはまり、家族は悲惨な生活を送っている。周囲とのつながりに苦悩する中、彼は、父親の愛犬を売り、出版資金にあてた。その後のしばらくの間の兵役から戻ると、家族は、父親の退職金で家族は普通の暮らしができるようになったものの、本の在庫にはカビが生えていた。さらには、書店においてもらった本は5カ月の間1冊も売れていないという燦燦たる状況。映画の終盤は、祖父と暮らすようになっていた父親に会いに行ったシナンの姿が描かれる。このような話で、見ている間、なじみのないトルコ語、あまりに田舎が舞台ということもあり、陰鬱な気分に陥る。しかし、最後の最後で、希望の光がさす。ああよかったと。どんな親でも親は親、親は子どもへの愛があると信じたくなるのだ。近くにいるのに、しばらく会っていない親が恋しくなった。

  • ムーヴィーリヴュー:『レ・ミゼラブル』 Les Misérables(監督 ジャン=ポール・ル・シャノワ)

    『レ・ミゼラブル』(原題:Les Misérables)
    監督:ジャン=ポール・ル・シャノワ
    出演:ジャン・ギャバン、ダニエル・ドロルム、ベルナール・ブリエ、セルジュ・レジャーニなど
    1957年
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     フランスのヴィクトル・ユーゴー(1802~85)が1862年に発表した小説が原作で、ジャン・ギャバン(1904~76)主演の古い映画。パンを盗んだ罪で19年間投獄されたジャン・バルジャンが、出所後にとある司教の慈悲によって改心し、新たな人生を歩む、というのが、大まかなストーリーである。原作の邦訳本もいくつかの出版社から刊行され続け、映像作品も何ヴァージョンもあり、芝居作品も上演され続けている。私は、子どもの頃、ねむの木学園の宮城まり子の語りのTVアニメ「まんが世界昔ばなし」で、その後は、児童文学や、新潮社の文庫版で、同タイトルに触れた。大学時代は、文学以外のクラスでジャヴェールに焦点を当てたリポートを書いた覚えがある。おそらく映画も見ているが、自分で選択して鑑賞するのは初。ジャン・ギャバン作品も初めてである。昔の俳優さん、声が良く、顔の骨格がしっかりしていて、見ていて不安にならない。ところで、同タイトルの作品が映像化される理由は何か。人を許すことは人間にとって本当に大切なのか、果たして暴動で世の中は変えられるのかなどを考えた。ユーゴーが発表した年は、日本が明治時代を迎える6年前だった。また、自分で始めた商売を成功させることが心の余裕を生むなども。ジャン・バルジャンは、商才に秀でた人間だった。受け手の状況などによって見方が変わるのも、名作の醍醐味だろう。

  • ムーヴィーリヴュー:『鉄道員(ぽっぽや)』(監督 降旗康男)

    『鉄道員(ぽっぽや)』
    監督:降旗康男
    出演:高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、小林稔侍、田中好子、吉岡秀隆、奈良岡朋子、志村けん、安藤政信など
    1999年
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     浅田次郎の短編小説が原作の映画。舞台は北海道。廃線間近のローカル線、定年間近の、幌舞線の終着駅で駅長を務める佐藤乙松の物語。我が子と妻を亡くした時も、休むことなく駅に立ち続けた鉄道員一筋だった人生を振り返る。幻想的で温もりも感じつつ、悲しい話だ。本作の元となる浅田作品は、以前に、北海道の旧炭鉱町の絵を描き続ける画家の方に、勧められたものだった。映画は、小説を再現した内容であり、映画の最初のシーンから、この世を去った、主演の高倉健、田中好子、奈良岡朋子、志村けんが台詞を発する度に、泣けてしまった。主題歌の作曲と編曲は坂本龍一。余計に切ない気持ちに。小林稔侍や大竹しのぶは本当に演技が上手く、吉岡秀隆は雪が似合う俳優だ。広末涼子には、本作のような良い作品に出演してもらいたいなどとも思った。映画を見たら、原作を、必ず読みたくなるだろう作品。

  • ムーヴィーリヴュー:『ノクターナル・アニマルズ』Nocturnal Animals (監督 トム・フォード)

    『ノクターナル・アニマルズ(原題:Nocturnal Animals)
    監督:トム・フォード
    出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノンなど
    2016年
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     音信不通だった小説家志望の元夫が書いた『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』を受け取った女性が主人公の作品。物語は、彼女の現実と、家族でドライヴ旅行に出かけたトニ―という男の休暇が暴力的な方向へ向かう話の、2部構成で展開する。アートギャラリーのオーナーとして成功しているスーザンは、現在の夫ハットンとは満たされない生活を送っていた。そんな折、かつての夫エドワードが彼女に捧げたという小説に没頭し、エドワード、ハットン、母親との関係、自身の芸術家としての才能を封印したことなどを回想する。映画は、スーザンはエドモンドに、小説の絶賛を伝えるため、会う約束をするが、彼は姿を現さず、1人レストランで待つ、というシーンで終わる。本作は、オースティン・ライトの『Tony and Susan』(邦訳『ノクターナル・アニマルズ』早川書房 刊)が元になっているという。人間は、復讐のために生きているのだろうか。エドモンドはスーザンに捨てられるかたちで別れていたのだ。そして、いい年になり、子どもがいたとしても、女性は母親からの呪縛から抜けられないらしい。なかなかダークな作品であり、暗い状況にいる人などは、さらに落ち込めて、逆に爽快な気分になるかもしれない。

  • ムーヴィーリヴュー:『アスファルト』Macadam Stories(監督 サミュエル・ベンシェトリ)

    『アスファルト』(原題:Macadam Stories)
    監督:サミュエル・ベンシェトリ
    出演:イザベル・ユペール、バレリア・ブルーニ・テデスキ、マイケル・ピットなど
    2015年
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     フランス郊外の古びた団地を舞台にした映画。2階で暮らす冴えない中年男、孤独な10代の少年と、隣に越してきた、かつて映画スターだった女優、不時着で現れたアメリカ人宇宙飛行士をNASAの依頼で預かるアルジェリア系の高齢女性、3組の住人の人生が、思いがけないかたちで交差する話である。登場人物のそれぞれが重い過去と現実を抱えているが、皆、日々の生活の中で、希望の光を見出しているのがよかった。

  • ムーヴィーリヴュー:『近くの他人』We Only Know So Much(監督 ドナル・ラードナー・ワード)

    『近くの他人』(原題:We Only Know So Much)
    監督:ドナル・ラードナー・ワード
    出演:ジーン・トリプルホーン、ダミアン・ヤング、ラウドン・ウェインライト3世など
    2018年
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     アメリカの作家、エリザベス・クレインの作品が原作の映画である。4世代で暮らす家族の物語だ。主人公の主婦、ジーンは、2児の母で、参加している読書クラブのメンバーと不倫している。夫は小売店の責任者で一家の主。身に覚えのない、学生時代の恋人と名乗る女性との関係を進展させようとしている。短大に通う19歳の娘はリアリティ番組のスターになろうと必死なファッショニスタ。9歳の息子はクロスワード好きな少年で、初恋の女の子に夢中に。夫の父親は、認知症が進み、家族からの介助を必要とし、祖母は比較的しっかりしている。本作は、この6人が繰り広げる人間模様を描いている。多くの人にとって身近な秘め事や課題、親子だけで暮らす核家族では学べない知恵が詰まった内容である。夫や妻以外との恋愛をしている人や、子どもの成長を見守る親御さんや、年老いた両親や祖父母の介護や介助を自宅で行う人などは、共感できることが多いのかもしれない。派手な内容ではないが、娘が夢に向かって進路を決めるシーンで終わるので、ハッピーなストーリーなのである。