カテゴリー: Editor’s Choice 愛書家のための映画

  • ムーヴィーリヴュー:『ノクターナル・アニマルズ』Nocturnal Animals (監督 トム・フォード)

    『ノクターナル・アニマルズ(原題:Nocturnal Animals)
    監督:トム・フォード
    出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノンなど
    2016年
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     音信不通だった小説家志望の元夫が書いた『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』を受け取った女性が主人公の作品。物語は、彼女の現実と、家族でドライヴ旅行に出かけたトニ―という男の休暇が暴力的な方向へ向かう話の、2部構成で展開する。アートギャラリーのオーナーとして成功しているスーザンは、現在の夫ハットンとは満たされない生活を送っていた。そんな折、かつての夫エドワードが彼女に捧げたという小説に没頭し、エドワード、ハットン、母親との関係、自身の芸術家としての才能を封印したことなどを回想する。映画は、スーザンはエドモンドに、小説の絶賛を伝えるため、会う約束をするが、彼は姿を現さず、1人レストランで待つ、というシーンで終わる。本作は、オースティン・ライトの『Tony and Susan』(邦訳『ノクターナル・アニマルズ』早川書房 刊)が元になっているという。人間は、復讐のために生きているのだろうか。エドモンドはスーザンに捨てられるかたちで別れていたのだ。そして、いい年になり、子どもがいたとしても、女性は母親からの呪縛から抜けられないらしい。なかなかダークな作品であり、暗い状況にいる人などは、さらに落ち込めて、逆に爽快な気分になるかもしれない。

  • ムーヴィーリヴュー:『アスファルト』Macadam Stories(監督 サミュエル・ベンシェトリ)

    『アスファルト』(原題:Macadam Stories)
    監督:サミュエル・ベンシェトリ
    出演:イザベル・ユペール、バレリア・ブルーニ・テデスキ、マイケル・ピットなど
    2015年
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     フランス郊外の古びた団地を舞台にした映画。2階で暮らす冴えない中年男、孤独な10代の少年と、隣に越してきた、かつて映画スターだった女優、不時着で現れたアメリカ人宇宙飛行士をNASAの依頼で預かるアルジェリア系の高齢女性、3組の住人の人生が、思いがけないかたちで交差する話である。登場人物のそれぞれが重い過去と現実を抱えているが、皆、日々の生活の中で、希望の光を見出しているのがよかった。

  • ムーヴィーリヴュー:『近くの他人』We Only Know So Much(監督 ドナル・ラードナー・ワード)

    『近くの他人』(原題:We Only Know So Much)
    監督:ドナル・ラードナー・ワード
    出演:ジーン・トリプルホーン、ダミアン・ヤング、ラウドン・ウェインライト3世など
    2018年
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     アメリカの作家、エリザベス・クレインの作品が原作の映画である。4世代で暮らす家族の物語だ。主人公の主婦、ジーンは、2児の母で、参加している読書クラブのメンバーと不倫している。夫は小売店の責任者で一家の主。身に覚えのない、学生時代の恋人と名乗る女性との関係を進展させようとしている。短大に通う19歳の娘はリアリティ番組のスターになろうと必死なファッショニスタ。9歳の息子はクロスワード好きな少年で、初恋の女の子に夢中に。夫の父親は、認知症が進み、家族からの介助を必要とし、祖母は比較的しっかりしている。本作は、この6人が繰り広げる人間模様を描いている。多くの人にとって身近な秘め事や課題、親子だけで暮らす核家族では学べない知恵が詰まった内容である。夫や妻以外との恋愛をしている人や、子どもの成長を見守る親御さんや、年老いた両親や祖父母の介護や介助を自宅で行う人などは、共感できることが多いのかもしれない。派手な内容ではないが、娘が夢に向かって進路を決めるシーンで終わるので、ハッピーなストーリーなのである。

  • ムーヴィーリヴュー:『アメリカン・フィクション』American Fiction(監督 コード・ジェファーソン)

    『アメリカン・フィクション』(原題:American Fiction)
    監督:コード・ジェファーソン
    出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、スターリング・K・ブラウン、レスリー・アガムズ、エリカ・アレクサンダー、イッサ・レイなど
    2023年
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     アメリカの作家、パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『Erasure』が原作の映画。主人公のモンクは、博士号を持つ大学教員で、売れない小説家である。姉と兄と他界した父親は医師、実家は別荘も持ち、家政婦がいる社会的クラスだ。物語は、彼が、講義中に人種差別用語を使ったことが原因で、大学から休職を命じられ、ブックフェアに参加し、実家に帰るところから始まる。ブックフェアでは、黒人のステレオタイプを迎合した小説で人気の、エリートコースを歩んできた黒人女流作家を知る。姉に任せたきりの、実家の母親は、アルツハイマーの兆候が出ていることがわかった。これからどうするかという時に、その姉が急死。母親は施設に入れる体調になっていくが、兄もモンクも、エリートにも関わらず、お金がない。そこで、介護費用の工面と、その女流作家の成功への複雑な思いから、ペンネームを使い、白人社会が喜ぶ経歴を作り上げ、さらに彼らがイメージする黒人像を描いた小説を書き上げる。原稿は、エージェント経由で出版社に売り込まれ、モンクは、ある出版社から桁外れの高額なアドヴァンス料を得た。母親の介護費の問題は解決する。ペンネームを使った小説は、映画化も決まり、ベストセラーにもなり、文学賞も受賞。しかしその文学賞は、「博士号を持つ大学教員で、売れない小説家」のモンクが選考委員だ。授賞式では、自分がその作家であると告白しようとする。ここからタイトルの「フィクション」がぴったりの展開に急に変わり、映画は終わる。原作は邦訳版が現状出ていないようだが、元の小説も読みたくなるほど、おもしろい作品だった。また、中年ならではの「こういう話をよく聞く」ということが描かれていた。例えば、きょうだいに任せっぱなしで、忙しいを理由に実家に寄り付かず、たまにしか顔を見せない子どもは、老いた親や実家のことを全くわかっていないとか、高学歴かつ有名大卒で、一見、経済的クラスが高い職業に就いていても、人生いろいろで、お金がない中年の現実とか、中年になったからこその、きょうだい間の、子どもの頃からの妬み恨みが勃発するが、それでも、きょうだいのことが心配で愛しいとか。人種問題や親のアルツハイマーや介護など、テーマは重いが、コメディ映画である。

  • ムーヴィーリヴュー:『ティファニーで朝食を』Breakfast at Tiffany’s(監督 ブレイク・エドワーズ)

    『ティファニーで朝食を』(原題:Breakfast at Tiffany’s)
    監督:ブレイク・エドワーズ
    出演:オードリー・ヘプバーン、ジョージ・ペパード、パトリシア・ニールなど
    1961年
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     アメリカの作家、トルーマン・カポーティ(1924~84)原作の、60年代のニューヨークが舞台の古い作品。作家志望の青年ポールが、隣人の風変わりなホリーと親しくなる。ポールは、彼女の華やかな生活の裏にある、複雑な内面や苦悩、夢を秘めた魅力に惹かれていく。友情が深まり、想いを寄せるが、2人の価値観は衝突する。だが、おそらくこれから結ばれるのだろうという最後で終わる。本作は、原作の龍口直太郎の旧訳と村上春樹の新訳とは異なる。もし、映画も小説も触れたことがない方は、先に、原作か邦訳本をお読みになることをお勧めする。映画は原作と切り分けて見たほうがよく、主演のオードリー・ヘップバーンを楽しむためにある。洋服やインテリアなど、全ての女性が参考にできるセンスが詰まっている。

  • ムーヴィーリヴュー:『長崎ぶらぶら節』(監督 深町幸男)

    『長崎ぶらぶら節』
    監督:深町幸男
    出演:吉永小百合、原田知世、高島礼子、原田知世、藤村志保、いしだあゆみ、渡哲也など
    2000年
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     なかにし礼(1938~2020年)の小説が原作の、明治から昭和が舞台の映画である。長崎の花街丸山で、10歳から奉公し、三味線と唄に秀でた芸者愛八と、長崎の郷土研究家の古賀十二郎の、中年の恋の物語だ。長崎の古い唄を探すために、2人は老芸者らを訪ね歩く。忘れられた名曲「長崎ぶらぶら節」にも出会うが、旅が終わる頃には、2人の関係は終わる。古賀は妻を選んだ。吉永小百合扮する愛八の死ぬ間際の言葉は「会いたか、古賀先生」。古賀は、別れた後に、愛八に誠意を金銭で尽くすが、人格者で知られた故渡哲也が演じることで、男の狡さが際立ち、見ている側をやきもきさせる。さらに、愛八は、略奪してでも古賀と一緒にいたほうがよかったのではと。芸者や妾の役がよく似合う吉永小百合、「長崎ぶらぶら節」を披露する長崎出身の原田知世、強気な女の役がぴったりな高島礼子、子役時代から可哀そうな人を演じるのが上手い高橋かおりなど、女優ウォッチも楽しめる作品だ。大叔父が古賀十二郎に師事していた。興味深く映画を鑑賞した。

  • ムーヴィーリヴュー:『風と共に去りぬ』Gone With the Wind(監督 ヴィクター・フレミング)

    『風と共に去りぬ』(原題:Gone With the Wind)
    監督:ヴィクター・フレミング
    出演:ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲイブルなど
    1939年
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     米南部アトランタ州ジョージアで生まれた、小説家のマーガレット・ミッチェル(1900~49)原作の作品である。同国では39年、日本では52年に公開。南北戦争前の、南部の壮大な農園で暮らす強気な美女スカーレット・オハラが主人公の物語。戦争の影響で生活が崩壊し、彼女は生き残りをかけた戦いに身を投じる。苦難を乗り越えつつ、故郷を守るために立ち上がる彼女の波乱に満ちた旅が描かれる。と同時に、男性運に恵まれない女性の話でもある。「この世で唯一価値あるものは土地だけだ。土地は永遠に残る」「神様に誓います。二度と飢えません」「明日は明日の風が吹く」など、本作を見たことがなくても、誰もが知る名言を残した映画だ。人間が、特に女性が生き抜く術、人生のどん底から這い上がるための心の持ち方、雇われずに主人として成功するための秘策、雇われるならどういうふるまいをすれば主人に気に入られるかなども、よくわかる。人種問題が気になる作品だが、女性も男性も一生に一度は見たほうがよい映画である。

  • ムーヴィーリヴュー:『プラダを着た悪魔』The Devil Wears Prada(監督 デヴィッド・フランケル)

    『プラダを着た悪魔』(原題:The Devil Wears Prada)
    監督:デヴィッド・フランケル
    出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチなど
    2006年
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     名門大卒のジャーナリスト志望の主人公アンドレアが、一流ファッション誌の厳しい編集長ミランダの下で前向きに働く姿を描いた物語。田舎からニューヨークに出てきた彼女は、ファッションにも業界にも興味がないのにもかかわらず、ミランダの第2アシスタントの職を引き受ける。過酷、かつ、無謀な要求にこたえるのが彼女の仕事だったが、しだいに、ファッションセンスも磨かれ、業務にも慣れていく。しかし、ミランダの成功と引き換えの代償や業界の現実を知ってしまった上に、自身の私生活での危機に直面したことで、我に返る。彼女は自分の信念を貫くため、ファッションの世界を去り、ジャーナリストの道に進むことを決意する。人間の強欲さが明るく描かれた作品である。ジャーナリストの世界にも不条理なことはあるだろうが、主人公は良い選択をし、ハッピーに終わるのが清々しい。