カテゴリー: Editor’s Choice 愛書家のための映画

  • ムーヴィーリヴュー:『沈まぬ太陽』(監督 若松節朗)

    『沈まぬ太陽』
    監督:若松節朗
    出演:渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香など
    2009年
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     1985年に起きた日本航空123便墜落事故を題材に、組織の腐敗と権力闘争、主人公の苦悩と葛藤を描いた山崎豊子原作の作品。主人公の恩地元は、「国民航空」の組合委員長として正義を貫いた結果、会社と対立し、10年にも及ぶ海外勤務を命じられる。帰国後は、事故の調査委員会の事務局長となり、様々な困難に直面しながら、遺族のために戦い続ける。中年以上の人は御巣鷹山ジャンボ機墜落事故を思い出し、勤務者や請負で仕事をやっていたら、人や組織にお仕えするとはどういうことだろう、などを考える作品だ。さらに、忖度なしに組織はあり得ないとも。昔に読んだ原作も泣きながら読んだが、本作も涙がとまらない作品だった。演技がうまい役者が勢ぞろいし、撮影には莫大な予算が組まれたこともよくわかり、制作された2009年からの時代の移り変わりに対しても切なくなった。

  • ムーヴィーリヴュー:『ノッティングヒルの恋人』Notting Hill(監督 ロジャー・ミッシェル)

    『ノッティングヒルの恋人』(原題:Notting Hill)
    監督:ロジャー・ミッシェル
    出演:ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント、ヒュー・ボネヴィルなど
    1999年

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     ロンドンの旅行書専門書店主を営むウィリアムは、アンナ・スコットという有名なハリウッド女優と出会う。2人の間には異なる世界の間に火花が散り、ロマンスが生まれる。しかし、対照的なライフスタイルの違いや、アンナのキャリアが困難を引き起こす。最終的には、2人の愛が、現実の障壁を乗り越えられるのか。以上が、要約である。時を共にする男女は、譲り合いの精神が必要ということだろうか。あり得るようなあり得ないような物語の本作は、いつ見てもおもしろい。映画の公開から25年。ウィリアムとアンナがどうなったのかは知りたいところではある。

  • ムーヴィーリヴュー:『眺めのいい部屋』A Room with a View(監督 ジェームズ・アイヴォリー)

    『眺めのいい部屋』(原題:A Room with a View)
    監督:ジェームズ・アイヴォリー
    出演:ヘレナ・ボナム・カーター、ジュリアン・サンズ、ダニエル・デイ=ルイス、マギー・スミスなど
    1986年
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     イギリスの小説家、エドワード・モーガン・フォースター(1879〜1970)の『A Room with a View』が原作の映画。時代は1907年。イギリスの良家の令嬢ルーシーと、イタリア・フィレンツェを旅行している時に知り合ったジョージの恋を描いている。封建的な時代の自由恋愛がテーマともいえる作品だ。話は、複雑なものではない。しかし、プッチーニのオペラ、ルーシーが弾くピアノ曲。本作が名作と言われる理由は、これらの音楽が人の心に残るからだろう。デジタル化の世の中に少し疲れている方で、恋愛作品を見たい方には、お勧めしたい。電子機器は全く出てこない。

  • ムーヴィーリヴュー:『雨月物語』(監督 溝口健二)

    『雨月物語』
    監督:溝口健二
    出演:京マチ子、水戸光子、田中絹代など
    1953年
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     安土桃山時代が舞台の、欲望に翻弄される人々を描いた作品。貧農の陶工、源十郎は、若狭という女と知り合い、家族を捨てて生活を共にする。ところが、女は死霊であることがわかり、村に帰るが、妻は既にこの世にいなかった。源十郎は自分の過ちに気がつき、勤勉な陶工になる、というのがあらすじである。源十郎や義弟、村人や町人、足軽らの言動や行動からしても、人間は愚かな部分があり、さらには、技術が進化した現代人と変わらないということがよくわかる映画である。人によっては教訓にできることもあるだろう。原作は、江戸時代の読本作者、上田秋成(1734~1809)による『雨月物語』の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」で、フランス人作家ギ・ド・モーパッサン(1850~93)の『勲章』も元になっているという。

  • ムーヴィーリヴュー:『シンプルな情熱』Passion Simple(監督 ダニエル・アービッド)

    『シンプルな情熱』(原題:Passion Simple)
    監督:ダニエル・アービッド
    出演:レティシア・ドッシュ、セルゲイ・ポルーニン、ルー=テモー・シオンなど
    2020年
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     レバノン出身の女性、ダニエル・アービッドの監督で、フランスのノーベル文学賞受賞作家、アニー・エルノー原作の映画。離婚歴のある子持ちの女性と、若いロシア人男性の情事を描いた作品である。2人の関係の主導権は外交官であるロシア人が握る。女性の親友がその関係をとがめようと、子育てが上の空になろうと、大学で文学の教鞭をとるその女性の時間は男のために過ぎていく。いつか土地を去る相手と関係を持ったことのある人、相手のペースに合わせすぎた恋愛や不倫の経験者などは、過去や、人によっては現在と重ねて見るだろう。既婚者の立場は強く、手のかかる年代の子どもの存在は大きいと思わせる作品でもあった。映画は、2人の別れのシーンから始まり、そして、静かに終わる。

  • ムーヴィーリヴュー:『ジェイン・オースティンの読書会』The Jane Austen Book Club(監督 ロビン・スウィコード)

    『ジェイン・オースティンの読書会』(原題:The Jane Austen Book Club)
    監督:ロビン・スウィコード
    出演:マリア・ベロ、エミリー・ブラント、キャシー・ベイカー、ヒュー・ダンシー、エイミー・ブレネマン、マギー・グレイスなど
    2007年
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     アメリカのSF短編作家で小説家のカレン・ジョイ・ファウラー原作の映画。世代の異なる女性5人と男性1人が、月1回の読書会で、18世紀末から19世紀はじめの、イギリスの小説家、ジェイン・オースティンの6作について語り合い、最後は、それぞれが、愛する人を見つけたり、絆を取り戻したり、という話。会の主催は輪番だ。6人は、その時の状況に合わせた場を提供し、気張っていないところがよい。また、本作の見どころでもある、オースティン作品の登場人物と自分を重ねるところがおもしろい。世界金融危機以前、かつ、iPhoneが登場する前でスマートフォンがポピュラーではない、ガラケー的な電話の時代の映画である。スピード感がなく、コミュニケーションは手紙やメールが主体、登場人物たちもソーシャルメディア映えを意識しないところもよかった。小説をたくさん読みたくなる作品でもある。

  • ムーヴィーリヴュー:『バベットの晩餐会』Babette’s Feast(監督 ガブリエル・アクセル)

    『バベットの晩餐会』(原題:Babettes gæstebud)
    監督:ガブリエル・アクセル
    出演:ステファーヌ・オードラン、ビアギッテ・フェザースピール、ヴィーベケ・ハストルプなど
    1987年
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     デンマークのイサク・ディーネセン原作の映画。19世紀のデンマーク、ユトランドの小さな村に住む姉妹は、牧師だった亡き父の修道院を守り続けている。彼女たちは、若かりし頃に、それぞれが求愛を断り、清貧な生活を送り、年老いていった。この姉妹とフランスからやってきたバフェットとの生活、彼女が姉妹の父の生誕100年でふるまうフランス式の晩餐会を描いた内容である。今回見たのは、HDニューマスター版ということで、はるか昔に何度か鑑賞した本作とは印象が異なった。「プロテスタントの清貧生活とフランス式のごちそうが出てくる映画」のイメージがあったが、年を重ねた自分は、見る角度が変わった。それは、姉妹、特に姉は、異性とのプラトニックラヴを貫き通し、果たしてよかったのだろうかということである。10年後くらいにまた見たい作品だ。

  • ムーヴィーリヴュー:『ボヴァリー夫人とパン屋』Gemma Bovery(監督 アンヌ・フォンテーヌ)

    『ボヴァリー夫人とパン屋』(原題:Gemma Bovery)
    監督:アンヌ・フォンテーヌ
    出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートンなど
    2014年
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     12年間の出版社生活を経て、フランスのノルマンディーで、妻と息子と暮らす主人公のパン職人、マルタン・ジュベールが、ギュスターヴ・フローベールの『ボヴァリー夫人』と、村の人たちを重ねて、観察する話。官能的な内容でもあり、本作の重要人物であるイギリス人、ジェマ・ボヴァリーの死などは、悲しい一方で、コミカルにも描かれる。平凡な生活を楽しむには想像力が必要であり、頭の中に、文学作品のストックがあればあるほど、創造的に暮らしていけるのではないか、などを思った。