カテゴリー: Editor’s Choice 既刊書評

  • ,

    ブックリヴュー:『「人生が充実する」時間のつかい方 UCLAのMBA教授が教える“いつも時間に追われる自分”をやめるメソッド』(キャシー・ホームズ 著、松丸さとみ 訳、翔泳社 刊)

     時間の使い方と幸福度の関係性が専門の社会心理学者で、UCLAアンダーソン経営大学院教授が、2022年に発表した『Happier Hour』の邦訳本。1日24時間の中で生きる人間が、「時間貧乏」の自身に向き合い、時間のとらえ方や使い方を変え、人生を改善する方法が書かれている。具体的には、「最適な可処分時間を考え」た上で、「時間的余裕を感じる方法」「最も賢明な時間のつかい方」「やる気を高める方法」「喜びを常に更新する方法」「幸福度を上げ、成果を出す」方法、「取捨選択する方法」「スケジュールの最適化」などだ。これらを達成するための14のエクササイズの紹介や、日常生活での助言も多数ある。著者の「やることを減らしても、時間は増えない」という言葉に納得した。本当にそうなのである。また「人生の終わりを想像してみる」という案があるが、これに関しては、ただの生き物として、死に向かって生きていることを自覚し、行動することこそ、効率的、かつ、幸せな時間の使い方をするのでは、などを考えた。著者の提案は、すぐに取り入れられることも多い。「時間貧乏」から脱したい人は一読をお勧めしたい。

    ISBN:978-4-7981-8069-4
    Cコード:0033
    A5判 320ページ
    価格:1,800円+税
    発行:翔泳社
  • ,

    ブックリヴュー:『スーラ』(トニ・モリスン 著、大社淑子 訳、早川書房 刊)

     本書は、2019年に88歳で死去した、アメリカのノーベル文学賞受賞作家が、1973年に発表した第2作の邦訳本だ。1919年から65年までのアメリカ・オハイオの集落を舞台とした、ネル・ライトとスーラ・ピース、2人の女性の関係を通し、その黒人共同体の移り変わりを描いた物語である。生い立ちの違いも大きく、12歳で出会った2人の性格は真逆であった。そして、ネルは、善良で常識的、スーラは、型破りで欲望的、破滅的ともいえる大人になっていく。スーラは、ネルの夫を寝取り、夫婦生活に終わりを告げるということにもなった。最後の章では、集落の多くの人が亡くなるトンネル事故が描かれる。2人の間に友情などあったのか、執着でバランスを取っていたとも考えられるが、執着しすぎる関係だったのではないか。今回、久しぶりに本作を読んで思ったことだ。同時に、死に向かっている生きる人間は、欲に忠実に生きたほうが良いとも。トンネル事故は、メタファーにも感じるのだ。

    ISBN:978-4-151200-55-7
    273ページ
    発行:早川書房
  • ,

    ブックリヴュー:『邱飯店交遊録 私が招いた友人たち』(邱永漢(きゅうえいかん) 著、中央公論新社 刊)

     2012年に88歳で亡くなった台湾出身の実業家、作家、経済評論家、経営コンサルタントだった著者は、食道楽で、友達を自分の家へ招くことが好きだったという。本書は、1955年第34回直木賞受賞前の54年から29年間の、自宅の料理「邱飯店」でのもてなしや、招待した人たちについてつづった、1983年発行『邱飯店のメニュー』を改題した本である。登場する人は、佐藤春夫と檀一雄にはじまり、日本史に名を残すような人や、その道の一流の人ばかりが名を連ね、驚く。出てくる料理は、高級食材による凝った調理法のものから、ひと工夫のある家庭料理など、どれもおいしそうだ。読者が料理をする人なら、食材や方法など、何かを取り入れたいと思うに違いない。私の中では、実業家と投資家のイメージが強い著者だった。食に興味があるからこそ、ビジネスや投資で成功できるのかもしれないと思った。

    ISBN:978-4-12-207257-2
    Cコード:1195
    文庫判 288ページ
    定価:900円+税
    発行:中央公論新社
  • ,

    ブックリヴュー:『自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング』(後藤宗明 著、日本能率協会マネジメントセンター 刊)

     DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する、リスキリングの重要性が注目されているそうだ。「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」、リカレントとは異なり「その先に仕事が直結している」のがリスキリングだ。本書は、この手法を広める活動をする著者が、自身のこれまでのキャリア、リスキリングにたどり着いた経緯、企業や個人が行える手法などをまとめている。2014年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授らが発表した論文「The Future of Employment」に衝撃を受けたという。今後増えていく技術的失業を解決する一助になるため、テクノロジー分野で仕事ができるようになりたいと願った。一見、日本のエリートコースを歩んでいるように感じるが、ご苦労もずいぶんされている。だからこその細やかさが伝わる実務書である。

    ISBN:978-4-8005-9047-3
    Cコード:2034
    四六判 336ページ
    定価:1,850円+税
    発行:日本能率協会マネジメントセンター
  • ,

    ブックリヴュー:『魂の退社 会社を辞めるということ。』(稲垣えみ子 著、東洋経済新報社 刊)

     編集記者として大手新聞社での勤務経験のある著者による、2016年初版の本。50歳で退職するまでの経緯、仕事と会社と人生、節電による家事や日常生活などが、柔らかく、読みやすい文体でつづられている。知的で、センスがよく、素敵な生活をされているなあと、著者の他の本を読むたび、いつも感心するが、久しぶりに読んだ本書(今回は電子版で)でも改めて思った。新聞業界の人たちにエールを送る内容であるとも感じた。私からは次の方々へお勧めしたい一冊だ。何かしらのかたちでの退職を控え、新しいスタートをきる準備をしている、大企業で働く人、公務員の職の人、若い頃から何十年も同じ組織や業界に従事する人などだ。著者は「会社は修業の場であって、依存の場じゃない」という。また、「原稿料というものは天文学的に安い」業界の勤務者は、職種を問わず、ご一読を、と思う。雇用されていた組織を去って、組織に属さず生きる人の言葉の力は大きいのだ。

    ISBN:978-4-492-04594-7
    Cコード:0036
    四六判 212ページ
    定価:1,400円+税
    発行:東洋経済新報社
  • ,

    ブックリヴュー:『「自信がない」という価値』(トマス・チャモロ=プリミュージク 著、桜田直美 訳、河出書房新社 刊)

     パーソナリティ分析、人材・組織分析、リーダーシップ開発の権威として知られ、大学教授、組織コンサルタントの社会学者が、2013年にまとめた『CONFIDENCE』の、2023年に出版された邦訳本。人は自身を過大評価しているが、利点などはなく、それをもてはやしすぎると、個人の成長を妨げる。よって実際の能力に見合った適量の自信を持つことが大切で、自らの限界を知ったほうがうまくいくという。データに基づいた言及からは、「謙虚であれ」というメッセージを感じた。私自身は、自信のなさは、心配性だと受け止めている。心配性は悪いことではなく、心理的にも物理的にも準備している場合が多いから、何かあった時に、もしかしたら対処が早いかもしれない。自信がなさそうなことで、それがよくないことだと人から批判を受けたり、本当に、何もかもに自信がない人は、ご一読を。

    ISBN:978-4-309-30031-3
    Cコード:0030
    296ページ
    価格:1,600円+税
    発行:河出書房新社
  • ,

    ブックリヴュー:『Fashion in Film 映画衣装とファッションデザイナー』(クリストファー・ラヴァーティ、山田優花 編集、ボーンデジタル 刊)

     映画と映画衣装をまとめた本の邦訳本。衣装とファッションのライターでコンサルタントの著者は、イギリス人のようだ。49以上のブランドやデザイナーと、その衣装や服が使われている映画を紹介している。扱っている映画は、1930年頃から近年の、名作か有名な作品だ。多くの人が、その内容と女優や俳優のファッションを同時に思い出すはずである。本書に目を通していると掲載されている映画をまた見たくなる。また、洋服を買う前に、あれこれ考える時の、よい材料になるだろう写真が多数掲載されている。映画作品の登場人物からファッションセンスを取り入れることは可能なのである。

    ISBN:978-4-86246-563-4
    Cコード:0076
    224ページ
    価格:4,000円+税
    発行:ボーンデジタル
  • ,

    ブックリヴュー:『ブルースと話し込む(Conversation with the Blues)』(ポール・オリヴァー 著、日暮泰文 訳、土曜社 刊)

     1927年に、イギリス・ノッティンガムで生まれたブルース研究者で、建築史家の著者が、ブルースシンガーと周辺の関係者に取材し、まとめた、1965年初版の邦訳本。本書には、96年版の序文が加わる。著者は、公民権法が成立する前の60年、BBCの録音機を持ち、アメリカの南部や北部・中西部都市をフィールドトリップする。3カ月にわたる旅には、妻も同伴したという。著者が「話し込んだ」67人の声からは、彼らのバックグラウンド、根底にある感情などが伝わる。資料性の高い「ブルース・ストーリー」であり、ブルースとは何かを考えさせられる。私は、ヒップホップの90年代初頭のニュースクールに、リアルタイムで影響を受けた世代の人間だ。そのカルチャーから、ブルースという音楽にも興味を持つようになった。邦訳本の初版以降、時おり、本書を適当にぱっと開き、そこにある、ブルースピープルの誰かの言葉を聞く。元気づけられることが多い。

    ISBN:978-4-907511-25-8
    283ページ
    発行:土曜社