カテゴリー: 日曜版

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    ブックリヴュー:『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(林真理子 著、KADOKAWA 刊)

     1982年に刊行された、小説家でエッセイスト、林真理子さんのエッセイ集。結婚願望や恋愛、仕事、女性としての生き方、社会風刺などが、ユーモラスにつづられている。私の中で「天才」に位置づけられる著者のデビュー作は大変おもしろい。発表された頃は、コンピュータもインターネットも特別な人たちだけのものだけで、もちろん、誰もが発信ができるソーシャルメディアも存在しない時代だ。著者の率直な発言は、女性たちの代弁者として、羨望の対象として、心を捉えたことだろう。林さんの作品は、大学生の頃に『葡萄が目にしみる』1冊読んだ。しかし当時の私には響かなかった。ところが、時がたって『野心のすすめ』を読んだ時から、すっかりファンになってしまった。以来、小説もエッセイも、今では動画チャンネルまでをチェックするようになった。何かを成し遂げたいと考えている、特に女性には、ぜひ読んでいただきたい1冊。

    ISBN:978-4-04-157904-6
    Cコード:0195
    文庫判 240ページ
    定価:440円+税
    発行:KADOKAWA
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    ブックリヴュー:『一九八四年〔新訳版〕』(ジョージ・オーウェル 著、高橋和久 訳、早川書房 刊)

     1949年に刊行された、イギリスの作家、ジョージ・オーウェル(1903~50)のディストピア小説『Nineteen Eighty-Four』の邦訳本。全体主義の監視社会を描いている。「舞台は、1984年。世界は、オセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国が分割統治している。オセアニアで暮らす主人公のウィンストン・スミスは、真理省記録局で働く党員で、歴史の改ざんが仕事である。独裁者の党首ビッグ・ブラザーが、絶え間ない監視、プロパガンダ、歴史操作を通じて完全服従を強いる中、自由と真実に憧れるウィンストンは、反逆者のジュリアと禁断の恋に落ちる。2人は党を打倒する動きをとるが、鎮圧され、最終的には、ウィンストンは現実を受け入れる」。以上が、だいぶ前に新訳を読んだ私の本書の要約である。力ずくの統制下の世界での、他人からの裏切り、拷問、洗脳など、苦しくなる場面が多いが、読了後は、「読んでよかった」「なぜ、子どもの頃か、若いうちに読まなかったのか」という感想を持った。未読の方はぜひどうぞ。

    ISBN:978-4-15-120053-3
    511ページ
    発行:早川書房
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    ブックリヴュー:『思い出トランプ』(向田邦子 著、新潮社 刊)

     40年以上前に刊行された、脚本家、随筆家、小説家の向田邦子(1929~81)の「かわうそ」「マンハッタン」「酸っぱい家族」「ダウト」など13作を収録した短編集。各作品で、人間の狡さや醜さ、汚さ、後ろめたさ、愚かさなどが描かれる。それらは、日常生活の些末なことと調和し、人間の曖昧さや矛盾さえもが愛おしいものとして捉えることができる。10年に1度くらい本作を読む。前回以上に自分の弱さを知り、人にも寛容になっている分、違った景色を感じた。0か1かの世の中に疲れを感じている方は、本作、及び、向田作品を、ぜひお読みください。

    ISBN:978-4-10-129402-5
    Cコード:0193
    文庫判 256ページ
    定価:550円+税
    発行:新潮社
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    ブックリヴュー:『ネイティヴ・サン:アメリカの息子』(リチャード・ライト 著、上岡伸雄 訳、新潮社 刊)

     1940年に出版された、アメリカの作家、リチャード・ライト(1908~60)の『Native Son』の邦訳本。30年代の米州西部シカゴが舞台で、主人公の黒人青年が、2度の殺害を犯し、最後は死刑を宣告される物語である。本作は、主人公ビッガー・トマスの行動を容認しているのではなく、彼を追い詰めた社会的、心理的な要因を探っている。話が進むにつれ、ビッガーは、より自暴自棄になり、暗い道への選択をする。読者は、恐怖と同情の両方を感じ、暴力と犯罪がなぜ起こるのかを考えることになる。はるか昔の学生時代に原書で読んだ小説だ。邦訳は初めて読んだが、リチャード・ライトの小説を読む時は、体力や心の状態が整っていることが大切なことを思い出した。同時に、地球上のすべての人が、健康、家族や伴侶や恋人や友人、仕事、お金に恵まれるよう、努めたいと感じた。
     

    ISBN:978-4-10-240261-0
    Cコード:0197
    文庫判 800ページ
    定価:1,100円+税
    発行:新潮社
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    ブックリヴュー:『見えない人間』(ラルフ・エリスン 著、松本昇 訳、白水社 刊)

    アメリカの作家、ラルフ・エリスン(1914~94)による、52年刊の小説『Invisible Man』の邦訳本。地下生活を送る主人公の青年の「僕」が、地下生活にいたるまでの過去を回想し、物語が進む。「僕」は、奨学金で入学した大学を退学になったり、働いていた塗料工場で事故にあったり、政治団体に参加したりなど、様々な経験をする。そこには、常に人種差別が存在し、トラブルが続く。著者も「僕」もアフリカ系の人である。そして題名の「見えない人間」とは、当時のアメリカの白人社会における黒人だ。「僕」は白人社会と黒人コミュニティ内でのアイデンティティを模索する。そして「見えない人間だって、社会的な責任として果たす役割があるかもしれないのだから」とエピローグで語る。しかし、本書の最後の一文は「君たちに代わって声を落として語っているのに、そのことに誰も気づいてくれない」。はるか昔の学生時代に、原書、及び、古本屋で購入した、58年刊の故橋本福夫さんの13章まで訳されたものを読んだ。松本昇さん版は初読である。現代的で読みやすい。


    ISBN:978-4-560-07231-8
    Cコード:0297
    新書判 420ページ
    定価:2,400円+税
    発行:白水社


    ISBN:978-4-560-07232-5
    Cコード:0297
    新書判
    396ページ
    定価:2,300円+税
    発行:白水社

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    ブックリヴュー:『ビール・ストリートの恋人たち』(ジェイムズ・ボールドウィン 著、川副智子 訳、早川書房 刊)

     1974年に出版された、アメリカの作家、ジェームズ・ボールドウィン(1924-87)の『If Beale Street Could Talk』の邦訳本。70年代初頭のハーレムに住む若いカップル、ファニーとティッシュの物語である。ティッシュの妊娠から出産までが描かれる。ファニーがレイプの冤罪(えんざい)を着せられ、投獄されたことから、2人の生活は一変することになった。その昔の学生時代に、原文で読んだ小説だ。映画化されたことは知らずに本書を手にとった。人は、大多数と異なる特質を持っていたり、白人が作り上げた社会で異端だったりすると、差別、蔑みや揶揄(やゆ)などで苦しむ場合がある。少なくとも私にはそれがあり、20代はボールドウィン作品に救いを見出していた。彼は黒人でゲイだった。そしてアメリカ人だった。激しくない作風も気に入るところだった。優しい人がゆえに、60代の若さでこの世を去った人だとも思っている。人と違いすぎることで生きづらいが、小説を読む気力はあるという方には、ぜひ本書を読んでほしい。

    ISBN:978-4-15-209829-0
    Cコード:0097
    四六判 288ページ
    定価:2,200円+税
    発行:早川書房
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    ブックリヴュー:『線が血を流すところ』(ジェスミン・ウォード 著、石川由美子 訳、作品社 刊)

     全米図書賞受賞を2回受賞したアメリカの女流作家が、2008年に発表した『Where the Line Bleeds』の邦訳本。南部が舞台の、双子の兄弟が主人公の話である。物語は、ジョシュアとクリストフが、高校を卒業するところから始まる。ハリケーン・カトリーナの後で仕事が少ない中、卒業後は、ジョシュアだけが職を得たが、クリストフはドラッグを売り始めることになった。そこへ、彼らを捨てて家を出ていた、ドラッグ中毒者となった父親と、良い仕事に就くために町を出ていった母親が現れ、双子は葛藤する。肉親や家族との絆は、支えであり、そう願う一方で、時に、苦しめるものであるという心情が描かれている作品だった。些細で小さな選択が、人生を左右するという、客観視もできた。双子たちが健全な大人になることを望みたい。

    ISBN:978-4-86182-951-2
    Cコード:0097
    四六判 320ページ
    定価:2,600円+税
    発行:作品社
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    ブックリヴュー:『カラーパープル』(アリス・ウォーカー 著、柳沢由実子 著、集英社 刊)

     アメリカ・ジョージア州出身の作家で社会活動家の著者が、1982年に発表した小説『The Color Purple』の邦訳本である。20世紀初頭の米南部の黒人女性の姿を通し、女性の生き方、性や人種などの差別をテーマを描いている。父親から性的虐待を受ける娘時代を過ごした主人公セリーが、暴力的なミスター**との結婚生活を終わらせ、幸せをつかむまでの物語が、書簡形式で進む。人間社会は、立場の弱い者が行動を起こしたり、厳しい法律や罰則ができたりするまでは、強者が弱者へ支配と服従を求め、雄は雌を犯す生き物と、心得ておくべきことがよくわかる作品だ。賢く生きたいものである。

    ISBN:978-4-0876-0117-6
    Cコード:0197
    四六判 368ページ
    定価:900円+税
    発行:集英社