2023年3月にこの世を去った、音楽家・坂本龍一が監修した、21年初版の音楽全集の18巻目。「楽器の王様」であるピアノ成立史と、ピアノ音楽の本質などを、音楽学者らと語る。SpotifyやApple Musicに用意されたプレイリストを聞きながら本が読める。切ない気持ちになる。
Cコード:1073
四六変判 200ページ
定価:2,000円+税
発行:アルテスパブリッシング
2023年3月にこの世を去った、音楽家・坂本龍一が監修した、21年初版の音楽全集の18巻目。「楽器の王様」であるピアノ成立史と、ピアノ音楽の本質などを、音楽学者らと語る。SpotifyやApple Musicに用意されたプレイリストを聞きながら本が読める。切ない気持ちになる。
雑誌やウェブメディアの元編集者で、現在は講演活動なども行っている、米東部ペンシルヴェニア州出身の作家が、小説家、詩人、芸術家、哲学者、研究者、作曲家、映画監督など、161人の日課や毎日のスケジュールなどをまとめた『Daily Rituals: How Artists Work』の邦訳本。原書は2013年に、日本版は14年に発売された。それぞれの仕事、食事や睡眠、趣味、人づきあいなどのエピソードが、人によっては、生活の糧を得るための別の仕事の話も出てくる。「天才たち」は、早朝か深夜に創作することが多く、散歩をする人が多いのが印象的だ。161人全員に、ぶれない集中力があることも伝わる。本書は、著者の個人のブログが元に制作されたという。クリエイティヴな仕事に就きながら、ブログを書き、本を執筆するとは、並大抵のことではない。読み手の多くが、「天才たち」とともに、著者からも刺激を受けるだろう。邦訳本刊行時から、本書のファンである。人生に良い影響を与えてくれた1冊だ。
1993年に大判で発表され、その後に文庫化、2003年に出版社が変わって文庫出版された、写真家、編集者で、ジャーナリストの著者による、当時の東京の住宅や、暮らしていた人たちの家の中の写真をまとめた記録集。写真を見ると、その多くは、「物が多い」「散らかっている」「物がむき出しになっている」印象を受ける。1993年といえば、平成5年。昭和の名残が十分あった。コンピュータとインターネットが普及する以前には、スマホもソーシャルメディアもなく、市民のための情報化社会にはまだ突入していなかった。「断捨離」「触ったときに、ときめくか」の片づけ方法の提唱者が登場するのも、まだ先の話である。物に囲まれた、生活感あふれる部屋からは、一生懸命に生きる人々の様子が伝わる。今はどうなのだろう。建物事情が変わり、家を借りる側も買う側も、クローゼットを重要視している。洒落た格安家具も浸透している。時代の流れに沿って物を少なくしたとしても、むき出しにしたくないものは、生活の中に必ずある。それらは、そこに収納する。収集しやすくなった情報や自分が作り出した記録は、コンピュータやスマホの中に格納する。一見すっきりしている。1990年代前半の人々の暮らしは、可視化された現代社会の人々の生活ではないか。名著といわれる本書から、そんなことを感じた。
本書は、2019年に88歳で死去した、アメリカのノーベル文学賞受賞作家が、1973年に発表した第2作の邦訳本だ。1919年から65年までのアメリカ・オハイオの集落を舞台とした、ネル・ライトとスーラ・ピース、2人の女性の関係を通し、その黒人共同体の移り変わりを描いた物語である。生い立ちの違いも大きく、12歳で出会った2人の性格は真逆であった。そして、ネルは、善良で常識的、スーラは、型破りで欲望的、破滅的ともいえる大人になっていく。スーラは、ネルの夫を寝取り、夫婦生活に終わりを告げるということにもなった。最後の章では、集落の多くの人が亡くなるトンネル事故が描かれる。2人の間に友情などあったのか、執着でバランスを取っていたとも考えられるが、執着しすぎる関係だったのではないか。今回、久しぶりに本作を読んで思ったことだ。同時に、死に向かっている生きる人間は、欲に忠実に生きたほうが良いとも。トンネル事故は、メタファーにも感じるのだ。
1927年に、イギリス・ノッティンガムで生まれたブルース研究者で、建築史家の著者が、ブルースシンガーと周辺の関係者に取材し、まとめた、1965年初版の邦訳本。本書には、96年版の序文が加わる。著者は、公民権法が成立する前の60年、BBCの録音機を持ち、アメリカの南部や北部・中西部都市をフィールドトリップする。3カ月にわたる旅には、妻も同伴したという。著者が「話し込んだ」67人の声からは、彼らのバックグラウンド、根底にある感情などが伝わる。資料性の高い「ブルース・ストーリー」であり、ブルースとは何かを考えさせられる。私は、ヒップホップの90年代初頭のニュースクールに、リアルタイムで影響を受けた世代の人間だ。そのカルチャーから、ブルースという音楽にも興味を持つようになった。邦訳本の初版以降、時おり、本書を適当にぱっと開き、そこにある、ブルースピープルの誰かの言葉を聞く。元気づけられることが多い。
1985年、26歳の時に文藝賞受賞作でデビューし、その後、直木賞、女流文学賞、泉鏡花文学賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、川端康成文学賞を受けている作家の自伝的小説。毎日新聞日曜版連載時までの著者の生きてきた道筋からは、読書への向き合い方から現代の女性の生き方までを考えさせられる。私は、高校時代の88年から89年に、マガジンハウス「オリーブ」で連載された『放課後の音符(キイノート)』で救われ、以降、山田詠美の著作の、おそらく、全てを読んだことのある人間だ。本書の刊行から1年以上が経ち、ヒップホップの何かの曲のサンプリングを聞いて、また、その曲を聞くような感じで、著者が引用したり、紹介したりする国内外の本、映画、音楽で、読んだことがないもの、聞いたことがないもの、はるか昔にそれをやったが内容を忘れてしまったものなどの多くに触れてみた。今回、再読し、より味わい深い一冊になった。本に書かれているものは、「人間が人間である限り、永遠に変わらずに煩わせられるだろう「不便」をテーマにしている」。印象的な言葉である。