月: 2024年1月

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    ブックリヴュー:『この父ありて 娘たちの歳月』(梯久美子 著、文藝春秋 刊)

     大宅壮一ノンフィクション賞受賞作家が、新聞での1年の連載をもとに、書くことが職業だった9人の女性と、それぞれの父親との関係をまとめた、2022年初版の本。父親は、有名だったり、社会的地位の高かったりする人もいれば、市井の人もいる。取り上げているのは、渡辺和子(1927~2016)、齋藤史(1909~2002)、島尾ミホ(1919~2007)、石垣りん(1920~2004)、茨木のり子(1926~2006)、田辺聖子(1928~2019)、辺見じゅん(1939~2011)、萩原葉子(1920~2005)、石牟礼道子(1927~2018)である。娘たちにとっての父親の印象は、時によって変わり、著者によると「自分の人生の中に「父の場所」を作り出したといえる」。書くという行為は重要だったのではないかという。さぞかしご立派なお父上だったのだろうという人がいた。数日ほど、こちらの気持ちがふさいでしまった父親の例もあった。どうしようもないという人もいた。自分と父親との長年の関係も深く考えた。もの書きとなり、その道で成功をおさめた9人の女性たちとその父親を知ることで、読み手は、たくましく生きていこうという気力が湧いてくるだろう。人生訓になることも本書には書かれている。親との関係をよく考える方に、特に、お勧めしたい。

    ISBN:978-4-16-391609-5
    Cコード:0095
    四六判 280ページ
    定価:1,800円+税
    発行:文藝春秋
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    ブックリヴュー:『情報・通信・メディアの歴史を考える』(石橋悠人 編集、石井香江 編集、貴志俊彦 編集、山川出版社 刊)

     情報・通信・メディアの歴史を知り、その役割や可能性を考えることは、現代・未来社会に大切であるという、研究者らがまとめた本。情報通信は、便利な要素がある一方、負の側面もある。また、政治経済や戦争、文化、歴史の転換点を生み出す要因にもなる。歴史を通し、「見えない労働者」と「画像送信」という技術と未来社会はどのように向き合っていくかなどの案もつづられる。通信技術の恩恵を受ける、現代に生きるすべての人が、高校のカリキュラムに加えられた「情報」分野の歴史を、本書のような書籍で勉強できる機会があればよいのに、と常日頃から思っている私である。1人でも多くの人に知ってもらえればと、今回とりあげた。

    ISBN:978-4-634-44523-9
    Cコード:0022
    B6変型判 212ページ
    定価:1,800円+税
    発行:山川出版社
  • ムーヴィーリヴュー:『ボヴァリー夫人とパン屋』Gemma Bovery(監督 アンヌ・フォンテーヌ)

    『ボヴァリー夫人とパン屋』(原題:Gemma Bovery)
    監督:アンヌ・フォンテーヌ
    出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートンなど
    2014年
    Amazon Prime Video

     12年間の出版社生活を経て、フランスのノルマンディーで、妻と息子と暮らす主人公のパン職人、マルタン・ジュベールが、ギュスターヴ・フローベールの『ボヴァリー夫人』と、村の人たちを重ねて、観察する話。官能的な内容でもあり、本作の重要人物であるイギリス人、ジェマ・ボヴァリーの死などは、悲しい一方で、コミカルにも描かれる。平凡な生活を楽しむには想像力が必要であり、頭の中に、文学作品のストックがあればあるほど、創造的に暮らしていけるのではないか、などを思った。