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ブックリヴュー:『ビール・ストリートの恋人たち』(ジェイムズ・ボールドウィン 著、川副智子 訳、早川書房 刊)

 1974年に出版された、アメリカの作家、ジェームズ・ボールドウィン(1924-87)の『If Beale Street Could Talk』の邦訳本。70年代初頭のハーレムに住む若いカップル、ファニーとティッシュの物語である。ティッシュの妊娠から出産までが描かれる。ファニーがレイプの冤罪(えんざい)を着せられ、投獄されたことから、2人の生活は一変することになった。その昔の学生時代に、原文で読んだ小説だ。映画化されたことは知らずに本書を手にとった。人は、大多数と異なる特質を持っていたり、白人が作り上げた社会で異端だったりすると、差別、蔑みや揶揄(やゆ)などで苦しむ場合がある。少なくとも私にはそれがあり、20代はボールドウィン作品に救いを見出していた。彼は黒人でゲイだった。そしてアメリカ人だった。激しくない作風も気に入るところだった。優しい人がゆえに、60代の若さでこの世を去った人だとも思っている。人と違いすぎることで生きづらいが、小説を読む気力はあるという方には、ぜひ本書を読んでほしい。

ISBN:978-4-15-209829-0
Cコード:0097
四六判 288ページ
定価:2,200円+税
発行:早川書房