日: 2024年4月14日

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    ブックリヴュー:『図書館巡礼:「限りなき知の館」への招待』(スチュアート・ケルズ 著、小松佳代子 訳、早川書房 刊)

    作家で古書売買史家、本人のソーシャルメディアによると、オーストラリアの大学で教鞭もとっている著者が、2017年に発表した『The Library: A Catalogue of Wonders』の邦訳本。本書のために実地調査し、古今の図書館の物語をつづった内容だ。図書館は蔵書のコレクションの場ではなく、本のある空間と人間の関係性がよくわかる。世界最古の口誦図書館が、おそらく、中央オーストラリアで数万年かけて形成されたこと、15世紀後半から16世紀初期のカトリック司祭のデジデリウス・エラスムスの「手元にいくばくかの金があれば、私は本を買う。もしそれで残れば、食べ物や衣服を買う」という何かに取りつかれたような言葉、愛書家のイタリアのウンベルト・エーコ(1932~2016)の話は興味深かった。シミについての言及もあった。デジタル化が進み、何よりもタイパが大切らしい世代は、この生き物もいてこその、本の文化があることなどはいざ知らずなのだろうなと、少し寂しい気持ちにもなった。

    ISBN:978-4-15-209849-8
    Cコード:0098
    四六判 336ページ
    定価:2,500円+税
    発行:早川書房