日: 2023年12月24日

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    ブックリヴュー:『スーラ』(トニ・モリスン 著、大社淑子 訳、早川書房 刊)

     本書は、2019年に88歳で死去した、アメリカのノーベル文学賞受賞作家が、1973年に発表した第2作の邦訳本だ。1919年から65年までのアメリカ・オハイオの集落を舞台とした、ネル・ライトとスーラ・ピース、2人の女性の関係を通し、その黒人共同体の移り変わりを描いた物語である。生い立ちの違いも大きく、12歳で出会った2人の性格は真逆であった。そして、ネルは、善良で常識的、スーラは、型破りで欲望的、破滅的ともいえる大人になっていく。スーラは、ネルの夫を寝取り、夫婦生活に終わりを告げるということにもなった。最後の章では、集落の多くの人が亡くなるトンネル事故が描かれる。2人の間に友情などあったのか、執着でバランスを取っていたとも考えられるが、執着しすぎる関係だったのではないか。今回、久しぶりに本作を読んで思ったことだ。同時に、死に向かっている生きる人間は、欲に忠実に生きたほうが良いとも。トンネル事故は、メタファーにも感じるのだ。

    ISBN:978-4-151200-55-7
    273ページ
    発行:早川書房