日: 2024年3月24日

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    ブックリヴュー:『紙の動物園』(ケン・リュウ 著、古沢嘉通 訳、早川書房 刊)

     11歳で中国甘粛(かんしゅく)省からアメリカに移住し、弁護士やプログラマーの顔も持つSF作家の作品。2015年の短編集『The Paper Menagerie and Other Stories』の邦訳単行本『紙の動物園』から7篇を収録した短編集で、本投稿では、同タイトル「紙の動物園」を扱う。舞台は、米国のコネチカット。主人公の「ぼく」であるジャックは、白人の父親と中国人の母親が両親である。カタログに掲載された「英語堪能で香港出身」の嘘のふれこみの母親を父親が買い、アメリカに呼び寄せ、誕生する。幼いジャックは、母親が作った折り紙の動物たちに癒され。しかし、成長するにつれ、アメリカ文化に同化しなければならないというプレッシャーを感じ、自分の伝統や母親から距離を置くようになる。大学生の時に、母親は病死するが、彼に遺した手紙で、ジャックは自分のルーツでもある彼女の生い立ち、そして我が母の、孤独と孤立を知ることになる。以上が物語の要約であるが、なんとも哀しい話だ。道を切り拓くとは、重い苦しみが付きまとい、さらに、家族ですら自分のことを理解しないのが人生なのだ。この世とアメリカは白人社会であり、彼らと彼らが作り上げた価値観によって、東洋人、ここでは中国人差別が存在する現実も、よく伝わった。自身を東洋人と思わず「白人」と思い込んでいる日本人の男性に頻繁に遭遇するが、そういう人以外に、本書はお勧めである。

    ISBN:978-4-15-012121-1
    Cコード:0197
    文庫判 272ページ
    定価:680円+税
    発行:早川書房